高校生の終わりだか、大学生のはじめだかに録画したVHSを、
いまだに時々見る。DVDではない。ビデオテープだ。
もう、20年前の録画映像である。
NHKスペシャル「奪還~ジョージ・フォアマン45歳の挑戦~」。
ノンフィクションライター、沢木耕太郎が構成・脚本・出演の
ドキュメント映像だ。
なぜ録画したのか、今では覚えていない。
しかし、何度見ても飽きない。
ボクサー、ジョージ・フォアマンって知ってはる?
現役時「象をも倒す」と言われたハードパンチャーである。
24歳で統一世界ヘビー級王座につき、1974年25歳で
「キンシャサの奇跡」で有名な対モハメド・アリ戦で王座陥落。
1977年、28歳で引退、牧師になる。
1987年、38歳でカムバック、1994年、45歳(!)でWBA・IBF
世界ヘビー級王座奪還(歴代最高年齢)。
映像は、1994年の王座奪還への過程を記録したものだ。
フォアマンはカムバックの理由を
「いろいろあるが、簡単に言うと M・O・N・E・Y さ。」
としている。が。
沢木耕太郎はこう言っている(ナレーションは小林薫)。
「彼の戦いは、20年前、モハメド・アリに敗れたキンシャサでの
夜、アリによってバラバラにされた、自身の自我を組みなおす
ための戦いなのではないか。」
「キンシャサの奇跡」での試合、25歳のフォアマンに対し、アリは
全盛をとうに過ぎた32歳だった。ベトナム戦争への徴兵を拒否
したアリは、王座をはく奪され、もっとも脂ののった数年間をふいに
することを余儀なくされての再挑戦だった。
フォアマン圧倒的有利で始まった試合は、7ラウンドまで
一方的にフォアマンが攻め、アリはロープ際で打たれ続けた。
だが耐えに耐えた第8ラウンド、アリは疲れの出たフォアマンを
KOする。
王座を取り戻したアリ、その後引退に追い込まれたフォアマン。
なぜ、アリは8ラウンドまで耐えきることができたのか。
なぜ、フォアマンは再びリングに立ったのか。
これがこのドキュメントの柱として話は進んでいく。
フォアマンはこう述懐する。
「あの時、アリには私のパンチに耐えるだけの理由があった。
リングで死んでもいい理由があったのさ。しかし、私には
それがなかった。
そして彼は、私のエゴを粉々に打ち砕いた。
私は、アリに、ボクサーとしてだけでなく、人間として敗北した
のだ。」
一方のアリは、試合後こうコメントしていた。
「私が負けることは、世界中でしいたげられている人たちに
とっての敗北を意味していた。だから、負けるわけには
いかなかった。」と
それに対して沢木は言う。
「これは、アリの一方的な思い込みである。しかし、その
思い込みでフォアマンの殺人的パンチに耐えきることができ、
打ち勝つことができたとするなら、キンシャサの奇跡は、
それはすなわち、壮大な精神の作り出した虚構が、
絶対的な肉体に打ち勝った瞬間だったのではないか。」
言葉としては出てこないが、映像を見ていると、フォアマンが
自らその瞬間を作り出し、今度は自分が精神の力で相手に
勝つ奇跡を再現しようとしているように思えてくる。
それは確かに、アリによって粉々にされた自我を再び取り戻すため
には、そうするほかないのだというように見える。フォアマンは
牧師になってからの20年間でも、それを取り戻すことは
できなかったのだ。
そして、そのとき45歳のフォアマンが挑戦したチャンピオンは、
なんと26歳という若さの選手(マイケル・モーラー)だった。
年齢差19歳。親子喧嘩ではない。
しかもこのモーラー、奇しくも、「キンシャサの奇跡」でアリに
敗れた時のフォアマンと、ほとんど同年齢なのである。
劇的、という駒がこれでもかとそろっていくのだ。
沢木はここで、モハメド・アリにインタビューしている。
パーキンソン病を患い、動きの緩慢なアリは、沢木の
「この世界王座戦、フォアマンは勝てるでしょうか」という質問
に、こう答える。たった一言
「Oldman.」
だから負ける、ということだったのか、それはわからない。
試合は勝つも負けるも、やってみなければわからない。
しかし、フォアマンは勝った。
第9ラウンドまで、フォアマンは鋭い王者のパンチに
耐え続けた。まさに自分が倒されたキンシャサでの、アリと
同じようにである。そして第10ラウンド、左ジャブからの
右フック、若いチャンピオンはダウンし、そのまま10カウント
の間立てなかった。
写真左がジョージ・フォアマン
フォアマンの勝利に、言葉を失い呆然とする沢木耕太郎。
沢木が見たかった「奇跡の瞬間」は再現され、20年かかって
やっとフォアマンは呪縛から解放されたのだ。
映像にはないが、その3年後、1997年フォアマンは48歳で
引退している。
印象的だったのが、フォアマンのジムの壁に、現役当時のアリ
の、見下ろすような大きな肖像画がかけられていたこと。
もう一つ、フォアマンがカメラに隠れ、地味な基礎練習をずっと
続けていたシーンだった。
20年前、一度自我を失ってしまった元チャンピオンだった
男が、20年かかっても、失った自我はしっかり取り戻すことが
できる事を証明した姿を記録した、ドキュメントの傑作だと思う。
今年40の自分だからこそ、すごく「入ってくる」のだよ君。
若いとき見ていたよりもずっと新鮮味を増して。
何回見たか知らないが、毎回感動するのでありまして。
ぜひ一見、と言いたいが、この映像作品、ユーチューブでも
ネットでも見つからない。NHKのアーカイブにはあるのだろうけど。
おわりに。
少し前、モハメド・アリが74歳で亡くなった。それを知ったとき、
即座に「ジョージ・フォアマンはどうしているだろう」と思った。
現在67歳のフォアマンは、どんな言葉をアリに送ったのだろう。
牧師としての聖書の祈りか、あるいはボクサーとしての別れの
あいさつか。いずれにしろ、それはすばらしくかっこいい
イメージとして想起できるのである。
スポーツ雑誌「Number」も、アリの追悼特集をしていた。
その中に、アリに関する今度は文章で書かれた沢木耕太郎の
記事があった。フォアマンに勝った後の、アリのその後、である。
かなり昔の文の再録であったが、図書館でこれを見つけ、
全文コピーした。
今回取り上げたドキュメント映像とこの文。
モハメド・アリと、ジョージ・フォアマンというドラマが、非常に
味わい深い。
追伸
スポーツドキュメント「奪還」のあと、ハマモトはこんな映像も
録画している。
このとき、ボクシングにしびれていたのだろうね。劇中の
今は亡きジョー山中の歌声が、またいいんだよにこれが。
今のわけーやつぁ、ジョー山中なんて知らねえだろほんまに。
カーロス・リベラの声もこの人なんだぜ!
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